硫化水素中毒になるとどうなる?濃度の数値や症状・防止対策を解説!

密閉空間や下水処理施設などで作業を行う現場では、「硫化水素中毒」のリスクが常に存在します。腐卵臭がすることで知られる硫化水素は、人体に極めて有害な毒性ガスです。一定濃度を超えると、中毒事故や死亡事故につながる危険性もあります。

当記事では、硫化水素中毒の基本情報から、濃度と症状の目安、リスクの高い現場の特徴、現場で実践できる予防策までを分かりやすく解説します。安全管理や作業マニュアルの見直しを検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

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1.硫化水素中毒とは?

硫化水素中毒とは、硫化水素ガスの吸入または皮膚からの吸収によって生じる中毒症状です。硫化水素(H₂S)は腐卵臭を放つ無色の有毒ガスで、自然界では火山ガスや温泉地、また下水処理場や清掃工場などでも発生します。このガスは水分に溶けやすく、呼吸器や目の粘膜から容易に体内に入り込みます。

低濃度では目や喉への刺激、頭痛やめまいなどが見られますが、高濃度では呼吸麻痺や意識障害を引き起こし、わずか数回の吸引で死に至る危険もあります。特に恐ろしいのは、濃度が高くなると嗅覚が麻痺し、臭いを感じなくなる点です。硫化水素中毒は重大な労働災害の一因として位置づけられており、作業環境における徹底した管理が求められます。

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2.硫化水素中毒になるメカニズム

硫化水素中毒のメカニズムは、主にその化学的性質と生体内での反応によって引き起こされます。硫化水素(H₂S)は水に非常に溶けやすい物質で、空気中に発生したガスが目や鼻、呼吸器の粘膜に触れることで体内に吸収されます。

吸入された硫化水素は肺から血中に入り込み、細胞内のミトコンドリアにある酵素「チトクロームオキシダーゼ」と結合します。この酵素は呼吸によるエネルギー産生に欠かせない存在であり、阻害されると細胞の呼吸が止まり、全身の臓器に深刻な影響を与えます。そのため、硫化水素は「化学性窒息性ガス」とも呼ばれ、厚生労働省などが注意喚起を行っています。

 

3.硫化水素中毒の数値と主な症状

硫化水素中毒は、その濃度と曝露時間により、ガス中毒症状の重さが異なります。10ppm以下では不快な臭いを感じる程度ですが、20~50ppmでは目の刺激や鼻の違和感が現れ、100ppm以上になると嗅覚が麻痺し、危険を察知できなくなります。さらに濃度が高まると、角膜障害や気道の炎症、気管支炎、肺水腫といった深刻な呼吸器障害が引き起こされます。

硫化水素濃度 主な症状
~5ppm 不快臭(腐卵臭)
10ppm 許容濃度(眼の粘膜の刺激下限値)
20ppm

350ppm

700ppm

気管支炎、肺炎、肺水腫

生命の危機

呼吸麻痺、昏倒、呼吸停止、死亡

出典:厚生労働省 三島労働基準監督署「酸素欠乏症・硫化水素中毒」

700ppm以上になると、体内での解毒作用が追いつかず、神経細胞を破壊して意識喪失や呼吸麻痺に至る危険があります。こうした症状は短時間の曝露でも命に関わるため、濃度の数値を正しく把握し、事故防止・早期退避を徹底することが重要です。

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4.硫化水素中毒が発生しやすい場所

硫化水素中毒は、特定の作業環境で発生しやすく、重大事故につながる危険があります。以下に代表的な5つの作業場所を挙げ、それぞれの発生原因や注意点を解説します。

●し尿処理施設

し尿の貯留槽では、し尿に含まれる硫酸塩などの有機物が、酸素欠乏状態で硫酸還元菌により分解され、硫化水素が生成されます。槽内は密閉されやすく、換気が不十分な場合に濃度が急上昇しやすいため、作業前の濃度測定が不可欠です。

●下水道・マンホール・ピット

下水に含まれる有機物の腐敗や微生物の呼吸により硫化水素が発生します。マンホールやピットなどの密閉空間ではガスが滞留しやすく、作業者が臭いに気づかず中毒に至るケースもあります。事前の送風・監視体制が必須です。

●腐泥・清掃工場の灰ピット

腐泥や清掃工場の残灰には硫化鉄や硫酸塩が含まれ、酸性条件下で硫化水素が放出されます。掘削作業やピット清掃作業の際には硫化水素の濃度が急上昇する可能性があるため、注意が必要です。

●パルプ工場・石油精製工場

パルプ液や原油には硫化物や硫酸塩が含まれており、貯蔵槽内での微生物反応や作業中の漏洩で硫化水素が発生します。作業に従事する際は、防毒マスクの着用や濃度計の常備が求められます。

●海水利用施設(発電所など)

取水路に付着した貝類の死骸が酸素不足の環境下で分解されると硫化水素が発生します。干し上げ作業や貝かき作業時に特に注意が必要で、換気と排ガス処理の徹底が重要です。

 

5.硫化水素中毒の防止対策

硫化水素中毒を防ぐには、事前のリスク把握と適切な対策が欠かせません。ここでは、現場で実践できる基本的な防止対策を項目ごとに解説します。

 

5-1.危険場所を確認する

硫化水素中毒のリスクを減らすには、作業前の危険場所の確認が不可欠です。タンクやピットなどの密閉空間が酸素欠乏・硫化水素危険場所に該当するかを事前に点検し、リスクアセスメントを徹底しましょう。

万が一に備え、現場には立ち入り禁止表示を設置し、作業は資格を持った主任者の指導のもとで実施する必要があります。作業員には特別教育を行い、硫化水素の危険性と対処法を十分に理解させることで、事故の予防につながります。

 

5-2.硫化水素濃度を測定する

作業開始前には必ず硫化水素濃度と酸素濃度を測定し、安全な環境であるかを確認する必要があります。厚生労働省では、硫化水素濃度10ppm未満、酸素濃度18%以上を安全基準としています。

出典:厚生労働省 三島労働基準監督署「酸素欠乏症・硫化水素中毒」

これらを上回る環境では、初期症状や呼吸障害のリスクが急激に高まります。測定時には保護具を着用するなど、測定者自身の安全確保も徹底しましょう。ガス濃度測定値に基づく管理は、感覚に頼らない客観的なリスク評価を可能にします。

 

5-3.換気を行う

硫化水素中毒の防止には、十分な換気が欠かせません。作業現場に外気を送り込み、濃度を安全基準以下に保つことで、有毒ガスの滞留を防げます。送風機を用いて効率的に換気し、その後は硫化水素と酸素の濃度を再測定して、安全が確保されたことを確認してください。

また、作業中も継続的な換気を行い、ガスの流入や発生を未然に防ぎましょう。換気は単なる一時的な措置でなく、継続的な安全確保の基本です。

 

5-4.保護具を使用する

作業環境の換気だけでは硫化水素の濃度を十分に下げられない場合、呼吸用保護具の使用が必須です。エアラインマスクや空気呼吸器などの給気式保護具を使用することで、有害ガスの吸入を防ぐことが可能です。ろ過式マスクは硫化水素には不十分なため、使用を避けましょう。

保護具は作業者全員分を常備し、緊急時にも即座に使用できる体制を整えることが求められます。視覚や皮膚への刺激に対しては、保護メガネや化学防護服も併用してください。

 

5-5.監視人を配置する

危険な場所での作業では、必ず監視人を配置し、安全を見守る体制を整えましょう。監視人は作業員の体調や作業の進行、換気の状況、保護具の使用状態などを常に確認します。異常があった場合は速やかに退避命令を出し、必要に応じて救急要請を行います。

また、救助が必要な際は、監視人自身も保護具を装着し、無防備での二次災害を防ぐことが大切です。監視体制の有無が、緊急時の対応力と生存率を大きく左右するでしょう。

 

まとめ

硫化水素中毒は、濃度や曝露時間によっては命を脅かす危険性のある深刻な災害要因です。特に密閉空間や有機物の分解が進む現場では、気づかないうちにガスが発生・滞留している可能性があります。

「濃度の測定」「換気」「保護具の装着」「監視体制の整備」といった基本的な対策を徹底することで、現場の安全性は大きく向上します。責任者はもちろん、現場で働く従業員一人ひとりが正しい知識と備えを持つことが、事故の未然防止につながります。日々の安全管理を強化する上でも、この記事の内容を振り返り、実践につなげてください。

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