VOCガスとは?環境への影響や排出規制・測定方法を解説

VOCガスとは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の総称であり、常温・常圧で気体や蒸気になりやすい化学物質を指します。VOCガスは、低濃度であっても長期間にわたり吸入すると人体に健康被害を及ぼす可能性があるため、きちんと対策を行うことが重要です。

当記事では、VOCガスの種類、健康や環境への影響、対策方法について詳しく解説します。正しい対応策を講じるためにも、VOCガスの測定を行いましょう。

1.VOCガスとは?

VOCとは、Volatile Organic Compoundという英語の頭文字を取った言葉です。日本語では「揮発性有機化合物」と呼ばれ、常温・常圧で気体や蒸気になりやすい化学物質のことを指します。

VOCが常温で揮発し、大気中で気体状になったものがVOCガスです。低濃度のVOCガスであっても、長期間にわたり吸入し続けると人体に健康被害などの悪影響を及ぼす危険性があります。

1-1.VOCガスの種類

VOCは揮発しやすい有機化合物の総称です。有機溶剤やアルコール、揮発油などがVOCに該当し、身近なものだけでも200種類以上あると言われています。

VOCは揮発性や親油性などの特性を生かして、主に工業的に活用されています。例えば、工業製品の製造や工事現場、ガソリンスタンド、印刷工程や産業洗浄などです。また、工業分野だけではなく、以下のように日常的に使われる製品の中にもVOCガスは含まれています。

  • スプレー製品
  • 塗料
  • 床ワックス
  • 接着剤
  • 殺虫剤
  • ウェットティッシュ

VOCガスは自動車の排出ガスにも含まれるほか、日曜大工で使う塗料などに含まれるケースも多いです。VOCガスは企業だけではなく、一人ひとりが日々の暮らしの中で発生させている点にも注意が必要です。

1-2.TVOCとの違い

VOCと似た言葉にTVOCがあります。TVOCはTotal Volatile Organic Compoundsの略で、総揮発性有機化合物を指す言葉です。すべてのVOCの総称を指すこともありますが、一般的には室内空気の汚染濃度の水準を示すためのVOCの総量を表します。VOCは種類が多く、個々のVOCについて健康への影響を評価するのが難しいため、TVOC、つまりVOCの総量を規制することで全体の汚染の低減を目指しています。

厚生労働省では、快適な室内環境を実現するためのTVOCを1立方メートルあたり400マイクログラムと定めています。

出典:厚生労働省「室内空気中化学物質の室内濃度指針値について」

2.VOCガスにはなぜ対策が必要?

VOCガスは一般消費者の日常生活の中でも生じる一方、全体の約7割は工場や事業所などから排出されています。VOCガスは光化学オキシダントや微小粒子状物質(PM2.5)などの原因となる大気汚染物質でもあるので、対策を行うことが必要です。

出典:東京都環境局「日常生活からのVOCについて」

VOCガスによる影響やVOC排出抑制対策が必要な理由について、具体的に解説します。

2-1.VOCガスによる影響

VOCガスは、大気環境や人体に対して以下のような悪影響を及ぼします。

・SPM(浮遊粒子状物質)

SPM(浮遊粒子状物質)とは、空気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径が10マイクロメートル以下のごく小さな粒子のことです。SPMは土壌の飛散などによって自然発生するケースもある一方、工場で生じる粉塵や煤塵、ディーゼル車の排出ガスなど、人為的な発生源によるものも多くあります。SPMは非常に小さく、大気中に長く滞留するのが大きな特徴です。一定レベル以上吸引すると、肺や気管などに沈着して呼吸器系に影響を与え、喘息や気管支炎といった病気の原因にもなります。粒径が2.5マイクロメートル以下のものは「PM2.5」と呼ばれ、通常のSPMより肺の奥に入り込むので呼吸器系の病気につながるリスクが高くなります。

・光化学オキシダント

光化学オキシダントは、工場や自動車から排出されるVOCガスなどが、太陽の紫外線によって光化学反応を起こして発生する物質の総称です。光化学オキシダントの濃度が濃くなり、空に白いもやがかかって見える状態のことを「光化学スモッグ」と言います。光化学オキシダントは、目や喉の痛み、咳といった粘膜への異常につながる物質です。加えて、植物への悪影響といった環境被害も懸念されます。

2-2.国による排出規制

VOCガスによって発生したSPMや光化学オキシダントは人間の体への有害性が高いため、VOC排出量の抑制に努めることが大切です。日本では、平成16年に大気汚染防止法を改正し、VOC排出規制の実施を始めました。

出典:経済産業省 社団法人 産業環境管理協会「VOC排出抑制の手引き」

大気汚染防止法では、一定規模以上の施設が「揮発性有機化合物排出施設」に指定され、国が定めた排出基準を遵守することが求められます。また、施設から排出されるVOCガスの濃度を測定し、結果を記録・保管することが必要です。万が一施設が排出基準を守れなかった場合は、都道府県知事などによってVOCの処理方法の改善を指導されたり、使用の一時停止を命じられたりする可能性があります。

3.VOCガスの測定方法

厚生労働省が定めたVOCガスの濃度指針値を遵守するためには、VOCガスを測定し、具体的な数値を知ることが必要です。VOCガスを測定するためには専用の測定器を使用するとよいでしょう。VOCガス検知器には、片手で扱えるものや、簡単に携帯できるサイズ・重量の装置が多くあります。

VOCガスの測定方法には主に以下の3種類があります。

  • 水素炎イオン化検出法
  • 非分散形赤外線吸収法
  • 光イオン化検出法

それぞれ概要や測定方法について解説するので、参考にしてください。

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3-1.水素炎イオン化検出法

水素炎イオン化検出法(FID法)で測定する際にはまず、試料ガスに含まれる炭化水素が燃焼ガスと混合され、水素炎に導入されます。次に、ジェットノズルの先端で燃えている水素炎の熱エネルギーによってイオン化が起こります。ジェットノズルと電極との間に直流電圧を与えることで、微小なイオン電流を捕らえ、濃度信号に変えるという仕組みです。

水素炎イオン化検出法では、測定中に水素ガスや純度が高い空気を持続的に供給する必要があります。

3-2.非分散形赤外線吸収法

非分散形赤外線吸収法(NDIR法)は、酸化触媒を利用してVOCガスを測定する方法です。試料ガスの中のVOCガスを高温に熱した酸化触媒に通して酸化させ、変換された二酸化炭素濃度を検出する方法で測定します。

非分散形赤外線吸収法は、VOC全般に対して感度が安定している点が特徴であり、大きなメリットです。ただし、水素炎イオン化検出法とは異なり、燃焼ガスを含む排ガスの測定には適していません。

3-3.光イオン化検出法

光イオン化検出法(PID法)は、さまざまな有機化合物や一部の無機物化合物に反応するセンサーを用いて測定する方法です。

光イオン化検出法で用いられる測定器は、イオン化室・紫外線ランプ・イオン電流を検出する2つの電極によって構成されています。まず、イオン化室に入れた試料ガスに紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーによって対象のガスが陽イオンと電子に分離します。陽イオンと電子はそれぞれ正負各電極に引き寄せられ、電流を生じるのがポイントです。発生した電流はガス濃度に比例しているため、VOC検知が可能になります。

光イオン化検出法では、TVOCの測定ではなく、VOCの成分ごとに選択性があるのが大きな特徴です。使用環境に応じて発生が想定されるVOCをピンポイントで測定できたり、特定の成分の有無を確認できたりする点は、ほかの測定方法にはないメリットと言えるでしょう。

まとめ

VOCガスは工業的な用途のみならず、日常生活の中でも頻繁に使用される揮発性有機化合物です。VOCガスは、大気汚染や健康被害の原因となるため、適切な対策が必要です。

VOCガスの測定方法としては、水素炎イオン化検出法、非分散形赤外線吸収法、光イオン化検出法の3つが主に使用され、それぞれの特性に応じて適切な方法が選ばれます。VOCガスを検知する機器はレンタルも可能なので、VOCガスを計測する必要がある方はぜひ一度レンタルをご検討ください。

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