UT(超音波探傷検査)とはどのような検査?特徴や原理を解説
UT(超音波探傷試験)は、対象物に超音波を利用して内部の欠陥を検出する非破壊検査技術の1つです。UTは素材を破壊せずに検査を行えるため、製造業やインフラの保守点検において使われています。
この記事では、UTの基本原理、検査対象、具体的な検査手法、さらに資格制度について詳しく解説します。超音波探傷検査を行う必要のある方や機器について知りたい方は、ぜひ当記事を参考にしてください。
1. UT(超音波探傷試験)とは?
UT(超音波探傷試験)とは、超音波を利用して、対象物のきずや割れなどを確認する試験のことです。検査には、超音波探傷器を使用します。
超音波探傷器は、センサー(深触子)から超音波を発信し、対象物のきずに反射して、戻ってくるまでの時間と強さを計測するシステムです。反射した超音波は、探傷器のモニター画面に表示され、そのグラフの高さと位置から、きずの位置や大きさを判断します。
1-1. 非破壊検査とは?
UT(超音波探傷試験)は、非破壊検査の1つです。非破壊検査とは、物を壊すことなく、対象物の欠陥や劣化の状況を判断する検査技術を指します。超音波探傷試験のほかにも、放射線透過試験や磁粉探傷試験、浸透探傷試験、渦流探傷試験などの種類があります。
非破壊検査は、主に鉄道やビル、橋梁、プラント、原子力発電所といった建築物や構造物、地中埋設物の検査に使われています。定期的に非破壊検査を行うことは、社会の安全を保ちながら、長期にわたって設備を使用するために重要です。
1-2. UT(超音波探傷試験)で検査できるもの
UT(超音波探傷試験)の試験対象となるものは、超音波が伝搬できる物体です。金属・セラミックス・ガラス・樹脂といった固体だけでなく、水や油などの液体も検査できます。金属片で叩いたときに高い周波数の音がするものは、超音波が伝わりやすく、UT検査に向いています。
探触子と被検体の間に空気が混入すると検査性能に影響しやすいため、一般的に、検査では専用媒質・水・油・グリセリンなどを介します。したがって、固体の場合は、液体を塗布するか、液没させても問題ないものでないと検査できません。
UTは、対象物のきず検査以外に、材質や寸法、膜厚の測定や、樹脂ホース製造時の速度制御、異物混入検出にも使われています。
1-3. UT(超音波探傷試験)の特徴
UT(超音波探傷試験)の特徴は、対象物を壊さずに内部の欠陥を確認できることです。そのため、製造時における素材や接合部の検査や、インフラの保守点検に適用されています。
UTは、超音波を使用する性質上、検査可能な素材が決まっているのも特徴です。例えば、オーステナイト系網や鋳造品といった粗粒材や鉛は、超音波が伝わりにくいため検査できません。比重の低い(0.5以下)液体も、伝搬性能が低いと言われています。
また、超音波による検査では、超音波が垂直に反射する面状きずが発見しやすい一方で、球状きずは検出しにくい傾向があります。検査前に、対象物の素材やきずの形状が試験に向いているかを確認しておきましょう。
UTを行う際は、超音波探傷器を用いるのが一般的です。超音波探傷器は、購入のほか、レンタルすることも可能です。
2. UT(超音波探傷試験)の方式別の原理
UT(超音波探傷試験)は、超音波が物質の境界面で反射する性質を利用した検査です。超音波センサー(深触子)から対象物に超音波を発信したとき、反射した超音波の量で、きずの大きさが分かります。超音波が反射するまでの時間に音速をかけると、超音波が進んだ距離が判明し、きずの位置も特定できます。
例えば、金属に超音波を入射する際、きずがある部分は空洞です。金属部分と空洞部分では、超音波の伝搬性能が異なります。伝搬性能の違いは、音響インピーダンス(物質の音速と密度をかけた値)の差によるものです。金属部分は、音響インピーダンスが大きいため超音波が透過して底面まで進みます。空気の部分は反射して、エコーのグラフに現れます。
なお、UTでは、きずに対して極力まっすぐ超音波が当たるように入射角度を設定することが重要です。そのため、対象物の状況によって、検査手法が分かれています。
2-1. 垂直探傷
垂直探傷は、対象物に対して垂直方向に超音波を入射する検査方法です。内部にきずがなければ、底面で反射したエコーのみが、きずがあれば、底面エコーの前にきずで反射したエコーが確認できます。
垂直探傷は、鋼板など、試験体の表面が平らで凹凸がない場合に最適です。被検体と深触子の間に空気が入らないよう、液体を塗布して行います。
2-2. 斜角探傷
斜角探傷では、対象物に対して斜めに超音波を出力します。きずがない場合は、超音波が反射せず、エコーは確認できません。きずがあれば超音波が反射するため、超音波の屈折角度や被検体の板厚を考慮して、きずの位置を特定します。
斜角探傷は、主に溶接部のきず検査に用いられます。溶接部には余盛で凹凸ができるので、垂直探傷を行うことはできません。
2-3. リニアスキャン
リニアスキャンでは、フェーズドアレイ用の深触子を用いて、対象物に垂直に超音波を入射します。フェーズドアレイ用の深触子は、超音波の発信する部分(振動子)が複数ついているのが特徴です。
リニアスキャンで得られたデータを解析すると、対象物の断面を画像で可視化できます。また、腐食状態などをマッピングした画像も作成可能です。
リニアスキャンは、垂直探傷と同様に、表面が平らな鋼板などの検査に使われます。
2-4. セクタースキャン
セクタースキャンは、リニアスキャンと同じく、フェーズドアレイ用の深触子を使用する検査方法です。リニアスキャンは垂直に超音波を与えるのに対し、セクタースキャンでは斜めに超音波を入射します。
セクタースキャンは、さまざまな角度の超音波を、一度に複数発信するのが特徴です。データ解析の際は、機械で角度ごとにデータを合成し、断面画像を作成します。通常の斜角探傷と比べ、被検体に適した角度幅や屈折角、焦点距離などを調整しやすい手法です。
セクタースキャンは、斜角探傷と同様に、溶接部の内部検査や表面割れ検査などの用途に用いられます。
3. UT(超音波探傷検査)の資格
UT(超音波探傷試験)は、担当技術者の技量に大きく左右されます。しかし、UTは安全にかかわる重要な検査であるため、テストの精度を一定に保たなくてはなりません。そこで、UTを含む非破壊試験には、資格制度が設けられています。
非破壊試験技術者資格とは、社団法人日本非破壊検査協会が認定する民間資格です。資格試験は、JIS規格(JIS Z 2305:2013)に基づいて実施されています。超音波探傷試験(UT)のほか、放射線透過試験、磁気探傷試験、浸透探傷試験などの種類があり、各種レベル1~3まで設けられています。
試験を受けるためには、受験資格を満たしていることが必要です。受験者は、近視視力および色覚に問題がなく、レベルごとの訓練時間および経験年数を満たしていなければなりません。なお、UTのレベル1における最低訓練時間は40時間、経験年数は3か月です。訓練の有効期限は5年間となっています。
資格試験は一次試験、二次試験に分かれています。一次試験は、多項選択式・四者択一の筆記問題で、二次試験はNDT指示書に基づく実技試験です。UTの実技試験では、試験時間内に試験機器の調整をし、指示された3体の試験体の探傷を行います。レベル3は、二次試験も筆記試験となります。
資格取得後は、5年後に資格継続調査を含む更新手続き、10年後に再認証試験の受験が必要です。
まとめ
UT(超音波探傷試験)は、非破壊検査の1つであり、超音波を用いて内部の欠陥を検出する方法です。UTには垂直深傷、斜角深傷、リニアスキャン、セクタースキャンといった複数の手法があり、それぞれに適した用途や特徴があります。UTの普及により、製造業やインフラの安全性向上に大きく貢献していると言えるでしょう。
超音波探傷検査を行う機器はレンタルで利用することも可能です。低コストで簡単に機器を用意したい方は、ぜひレンタルの利用もご検討ください。