水質検査の基本となる11項目とは?検査の義務や目的・種類を解説!
水は日常生活に欠かせない存在ですが、見た目だけでは安全性を判断できません。特にビルや大型施設などでは、水質が検査基準を満たしているかを確認する「水質検査」が法律で義務付けられています。
当記事では、水質検査の目的や法的義務の概要、飲料水・プール・公衆浴場に対する検査の種類、検査で特に重要視される11項目について紹介します。安全な水環境を守るために必要な基礎知識を押さえておきましょう。
1.水質検査とは?
水質検査とは、水道水や雑用水、地下水などの水質が安全基準を満たしているかを確認するための検査です。特に、興行場や百貨店、学校、事務所などの特定用途に使用され、延べ面積が一定以上の建築物(特定建築物)は、ビル管理法により水質検査が義務付けられています。水質検査は、水質検査業者などの専門業者に依頼することも可能です。
【特定建築物の定義】
- (1)建築基準法に定義された建築物であること
- (2)1つの建築物において、次に掲げる特定用途の1又は2以上に使用される建築物であること。特定用途:興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、学校(研修所を含む。)、旅館
- (3)1つの建築物において、特定用途に使用される延べ面積が、3,000平方メートル以上であること。(ただし、専ら学校教育法第1条に定められている学校(小学校、中学校等)については、8,000平方メートル以上であること。)
1-1.水質検査の目的と役割
水質検査の目的は、日常的に使用する水が安全かつ適切であることを確認し、健康被害を未然に防ぐことにあります。水は見た目には異常がなくても、給水設備の不具合や経年劣化によって菌の繁殖や有害物質・化合物の混入が起こる可能性があります。
特に受水槽を備えたビルや施設では、ビル管理者や所有者が責任を持って水質を維持しなければなりません。定期的な水質検査により、目に見えないリスクを早期に発見し、利用者に安全な水を届けることができます。
1-2.水質検査の法律と義務
水質検査は、水道法第20条に基づき、水道事業者が定期的および臨時に実施することが義務付けられています。色や濁度、残留塩素などの簡易検査は1日1回以上、基準項目検査は月1回、全項目検査は3か月ごとに行う必要があります。結果は記録として作成し、5年間保存しなければなりません。
(水質検査)
第二十条 水道事業者は、環境省令の定めるところにより、定期及び臨時の水質検査を行わなければならない。
2 水道事業者は、前項の規定による水質検査を行つたときは、これに関する記録を作成し、水質検査を行つた日から起算して五年間、これを保存しなければならない。
3 水道事業者は、第一項の規定による水質検査を行うため、必要な検査施設を設けなければならない。ただし、当該水質検査を、国土交通省令の定めるところにより、地方公共団体の機関又は国土交通大臣及び環境大臣の登録を受けた者に委託して行うときは、この限りでない。
引用:e-Gov 法令検索「水道法第二十条」引用日2025/05/30
また、一定規模以上の建築物では、ビル管理法により飲料水の水質検査や貯水槽の清掃が義務付けられており、建物の衛生環境を維持する上で重要な制度となっています。
2.水質検査の種類
水質検査には、用途や施設によってさまざまな種類があり、必要な検査回数も異なります。ここでは、飲料水やプール、公衆浴場などに対して実施される代表的な水質検査について解説します。
2-1.飲料水水質検査
飲料水検査は、水道法第4条に基づき、水道水が人の健康と生活に適した水質基準(51項目)に適合しているかを確認するために行います。代表的な項目には、一般細菌・大腸菌・カドミウムなどが挙げられます。
また、建築物衛生法では、定期的に16項目と消毒副生成物12項目の検査が義務付けられています。
2-2.一般遊泳用プールの水質検査
一般遊泳用プールの水質検査は、利用者の衛生と安全を確保するため、厚生労働省が定める「遊泳用プールの衛生基準」に基づいて行われます。検査項目には、pH値・濁度・過マンガン酸カリウム消費量・遊離残留塩素濃度・一般細菌・大腸菌・総トリハロメタンなどがあり、月1回または日常的に測定しなければなりません。
目標値に適合しない場合は、補水や消毒などの改善措置が求められます。
2-3.公衆浴場の水質検査
公衆浴場の水質検査は、衛生的な入浴環境を確保するために、「公衆浴場における水質基準等に関する指針」に基づいて実施されます。検査対象には、原湯・原水・上り用湯・上り用水・浴槽水があり、それぞれに濁度・pH値・過マンガン酸カリウム消費量・大腸菌群・レジオネラ属菌などの基準値が設けられています。
水質検査は年1回以上(浴槽水は条件に応じて2回または4回)実施する必要があり、検査結果は3年間保存しなければなりません。
3.水質検査の基本となる11項目・10項目の内容と違い
水質検査では、通常は51項目または16項目が基準とされていますが、一定の条件を満たす場合は一部の項目を省略できます。ただし、10項目または11項目については毎回の点検が義務付けられており、省略はできません。法改正により1項目が追加され、現在は11項目が基本とされています。法令や条例に基づかない自主的な水質調査では、10項目での検査でも差し支えありません。以下では、それぞれの検査項目について解説します。
3-1.一般細菌
一般細菌は、水中に存在するさまざまな細菌の集合体です。人体に無害な菌も含まれますが、病原性大腸菌が含まれる場合もあります。水質の汚染状況を判断する重要な指標であり、1mlの検水で形成される集落数が100以下が基準値とされています。
3-2.大腸菌
大腸菌は、人や動物の腸内に存在する菌です。ほとんどは無害ですが、病原性を持つ種類もあり、飲料水中での検出は衛生上の問題となるため、「検出されないこと」が水質基準として定められています。
3-3.亜硝酸態窒素
亜硝酸態窒素は、肥料や排水、腐敗した動植物などに由来する成分です。特に乳幼児にはメトヘモグロビン血症などの健康リスクを引き起こす可能性があります。単独で検査を行う必要があり、基準値は0.04mg/L以下です。
3-4.硝酸態窒素および亜硝酸態窒素
硝酸態窒素は空気・土・水に含まれる窒素、亜硝酸態窒素は亜硝酸塩中の窒素です。これらの成分は、肥料や生活排水などから水中に入り込むことがあり、過剰に含まれると人体への悪影響が懸念されます。合計で10mg/L以下が基準とされ、水質管理上重要な検査項目です。
3-5.塩化物イオン
塩化物イオンは、ナトリウム塩やカリウム塩などが水に溶け出したものです。下水や海水の混入により濃度が上昇します。水質汚染の指標とされ、基準値は200mg/L以下と定められています。
3-6.有機物(全有機炭素(TOC)の量)
有機物は、生活排水や工場排水、生物由来の成分などにより水中に含まれる有機炭素を指します。水の汚濁度を示す重要な指標で、基準値は3mg/L以下です。安全な飲料水を確保するために定期的な監視が必要です。
3-7.pH値
pH値は、水が酸性かアルカリ性かを示す数値です。水質の変化や腐食のリスクを評価する際に重要となります。水道水の基準値は5.8以上8.6以下で、この値を逸脱すると水の腐食性が高まるなどの水質トラブルにつながる可能性があります。
3-8.色度
色度は水の見た目の色を数値で表したもので、透明性の指標です。鉄や亜鉛、有機物の混入、または汚水が原因で水に色が付くことがあります。水道水では色度5度以下が基準とされています。
3-9.濁度
濁度は、水の透明度を示し、水中に含まれる微粒子や汚染物質の存在を反映します。配管の劣化や生物の繁殖、設備不良が原因で、濁りが発生することがあります。基準値は2度以下です。
3-10.臭気
臭気の検査は、水に異常なにおいがないかを確認するためのものです。通常の塩素臭以外に異臭が感じられる場合、微生物や異物の混入が疑われることから、「異常でないこと」が基準となっています。
3-11.味
味の検査は、水に異常な味がないかを確認する項目です。配管の腐食や異物混入、藻類の発生などが原因で味が変化することがあるため、「異常でないこと」が飲用水としての基準となります。
まとめ
水質検査は、飲料水やプール、公衆浴場などで使用される水が基準を満たしているかを確認する重要な検査作業です。特に、ビルや大型施設では法令により水質検査が義務付けられており、利用者の健康と安全を守るための衛生管理・維持管理が求められます。
検査にはさまざまな種類があり、用途に応じて検査項目や検査頻度も異なりますが、「一般細菌」「大腸菌」「pH値」「濁度」などを含む11項目は、すべての検査で基本となる項目です。施設管理者や事業者の方は、水質検査基準に基づいた管理を徹底し、必要に応じて水質測定器の活用もご検討ください。