トレーサビリティ体系図とは?測定器の校正が必要な理由も解説
普段何気なく使っている測定器ですが、使うにつれて徐々に精度が落ちてくることがあります。精度の低い測定器を使い続けると、正しい計測ができなくなり、実務に影響が出てしまうので注意が必要です。測定器の精度は、校正証明書やトレーサビリティ体系図で確認できます。
当記事では、測定器の精度にかかわるトレーサビリティとは何かを解説します。測定器はただ使うだけではなく、精度にも注意するように心がけましょう。
1.トレーサビリティとは?
経済産業省では、計測用語としてのトレーサビリティの意味を以下のように説明しています。
ある測定器が国家計量標準に繋がっていることを確認する校正の連鎖のことを言います。
引用:経済産業省「計量標準FAQ(全般)」引用日2024/03/07
何かを正しく計測するためには、正確な機器を使い、適切な方法で実施する必要があります。しかし、使っているうちに測定器に劣化が起こり、不具合が発生したり測定精度が落ちたりすることは少なくありません。
そのため、測定器を利用する人は、正確性を担保するために定期的に標準器を用いて校正しなければなりません。
校正に用いた標準器は、より正確な標準器による校正が必要です。その標準器はさらに正確な上位標準器を使って校正されることを繰り返し、最終的には最上位の基準である国家計量標準にたどりつきます。このような、国家計量標準までたどりつく切れ目のない校正の連鎖を「トレーサビリティ」と言います。
1-1.測定器の校正とは
測定器の校正とは、当該の測定器と基準となる計量器の数値を比較し、ずれがないか、ある場合はどれだけずれているかを確かめる作業を指します。測定器を調整して誤差を修正することではなく、正確な値とのずれを把握するのが校正です。校正によってずれが確認されたときは、適宜メンテナンスや修理を実施します。
校正作業を実施する時期については、法的な決まりはありません。各現場において適切な時期を見極め、実施することが大切です。測定器メーカーが推奨する校正周期を参考にして決めるとよいでしょう。
1-2.測定器の校正が重要な理由
測定器の定期的な校正が重要視されているのは、自社製品を計測して得た数値が正確でなければ、品質や仕様を一定に保てないためです。社内検査は問題なく通っても、納入先で仕様に適合していないと判断されてしまうと、企業としての信頼を損ないかねません。
定期的な校正によって測定器の正確性を保つことで、自社製品の品質の保全につながります。
2.計量法トレーサビリティ制度とは
計量法トレーサビリティ制度(JCSS:Japan Calibration Service System)とは、信頼できるトレーサビリティを提供するために制定されている制度です。計量法トレーサビリティは以下の2つによって構成されています。
- 計量標準供給制度
- 校正事業者登録制度
ここでは、上記の各制度について解説します。
2-1.計量標準供給制度
計量標準供給制度とは、経済産業大臣が指定・登録した校正事業者が、指定された特定標準器や特定標準物質を用いて計量標準の供給を行う制度のことです。高精度な計量標準の確立を促し、産業界をはじめとする各業界に合った計量標準の供給を目的として設置されました。
国家計量標準は日本に1つしかないため、測定器メーカーや保守点検サービス事業者が使用することはできません。代わりに、国に登録された校正事業者が、国家計量標準へのトレーサビリティが確保された2次・3次標準の供給を行います。
2-2.校正事業者登録制度
校正事業者登録制度とは、正確に校正できる技術や設備・環境を有すると認められた校正事業者を国に登録する制度です。登録申請は任意で、校正業務を行う事業者からの申請により25の登録区分ごとに審査が行われます。
登録審査を実施しているのは、経済産業省から権限を与えられた独立行政法人製品評価技術基盤機構の認定センターです。
登録が認められた事業者は、登録範囲において校正した場合に、JCSS標章が付いた校正証明書を発行できるようになります。JCSS標章付き校正証明書は、供給した計量標準が国家計量標準につながっていることの証です。同時に、登録事業者に高い校正技術があることや品質システムが信頼できるものであることの証明にもなります。
なお、登録事業者がさらに審査を受けて国際MRA対応認定事業者として認定されると、国際的に通用するJCSS認定シンボルの入った校正証明書を発行できるようになります。
3.トレーサビリティを証明する書類
測定器の計量トレーサビリティを証明する書類には以下の3つがあり、あわせてトレーサビリティ3点セット(校正3点セット)と呼ばれています。
- 校正証明書
- 基準器検査成績書(試験成績書)
- トレーサビリティ体系図
トレーサビリティ3点セットは、当該の計測器が国家計量標準に対しトレーサブルであることの証明になります。
ここでは、それぞれの違いやどのような書類なのかについて解説します。
3-1.校正証明書
校正証明書は、校正サービスを提供する事業者などによって適切に校正が行われたことを証明する書類です。書き方に決まりはなく、以下の項目が記載されていることが一般的です。
- メーカー名
- 商品名(測定器の名称)
- 型式
- 製造番号
- お客様名
- 使用した標準器
- トレーサビリティ証明の宣言
- 試験実施日
校正証明書は「校正した」ことを証明する書類であり、測定値などは記載されていません。
また、校正証明書にはJCSS標章付きと標章なしのものがあります。前者はJCSS登録事業者が発行するもので、後者は登録していない事業者が発行する独自の校正証明書です。
3-2.基準器検査成績書
基準器検査成績書(試験成績書)とは、基準器の構造や精度が規定の基準を満たしているかどうかを確かめる検査に合格すると交付される書類です。基準器とは、特定計量器の検定や検査を実施する際に基準となる計量器を指します。基準器を使用する事業者は、定期的な検査が義務付けられています。
トレーサビリティ3点セットに含まれる基準器検査成績書は、校正に用いた基準器が規定の要件を満たすものであったことを証明する書類です。測定器が国家計量標準に対してトレーサブルであることを示すものではありません。
3-3.トレーサビリティ体系図
トレーサビリティ体系図とは、国家計量標準・国際計量標準までつながる測定器の校正の鎖を体系的に表したチャート図です。すべての経路や使用した基準器が明記されています。
体系図を見れば、測定器がどのような経路でどのような機器を使用して校正され、国家計量標準までたどりついたかが一目で把握できます。
4.トレーサビリティを確認するには?
計測する際に用いた測定器の信頼性が証明できなければ、測定結果の信憑性も揺らぎます。
測定器が適切に校正されていることを証明するためには、トレーサビリティの取得が必要です。取得するには、大きく以下の2つの方法があります。
- 校正証明書やトレーサビリティ体系図付きの測定器をレンタルする
- 保有する測定器がある場合は、校正事業者に依頼する
現時点で測定器を保有していない場合は、校正証明書が付いた機器をレンタルする方法がおすすめです。校正証明書付きの測定器をレンタルすれば、スムーズにトレーサビリティを確認できます。必要な期間だけ測定器をレンタルすれば、購入する場合に比べてコストが抑制でき、管理の手間もかからず便利です。
すでに保有する測定器がある場合は、校正事業者に校正を依頼する方法があります。その際は、校正実績が豊富で信頼できる事業者を選ぶことが大切です。また、校正期間中に代替機を手配してくれる事業者であればなおよいでしょう。
まとめ
測定器で正しく数値を測定するためには、定期的に機器の校正を行う必要があります。「標準器」を用いた校正を繰り返す連鎖をトレーサビリティと言い、トレーサビリティを証明することで、きちんと校正されている機械かどうかが判断できます。
トレーサビリティを証明する書類には、校正証明書や基準器検査成績書、トレーサビリティ体系図などがあります。測定器をレンタルするときは、これらの書類があるかどうかを確認しましょう。