酸素欠乏症の危険性|原因と対策方法も解説
密閉された空間で作業を行うときは、酸素欠乏症が起こらないように注意する必要があります。酸素欠乏症は酸素濃度が薄い場所で活動することにより発生する症状で、命にかかわる場合もあります。
当記事では酸素欠乏症について、危険性と原因、対策方法を詳しく解説します。作業する人が安全を確保できるよう、危険な場所での活動にはさまざまな対策を求められます。閉所での作業が必要な場合は、ぜひ当記事を参考にし、安全を確保しましょう。
1.酸素欠乏症とは?
酸素欠乏症とは、空気中の酸素濃度の低下により体内に酸素を十分に取り込めなくなった場合に起こる症状です。空気中の酸素濃度が18%未満というのが酸素欠乏症の基準であり、16%を下回ると自覚症状が表れ始めます。
2002年~2021年までの間に、酸素欠乏症による労働災害は123件発生しています。業種別の酸素欠乏症発生状況は、次の通りです。
業種 | 発生件数 |
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製造業 | 58件 |
建設業 | 26件 |
清掃業 | 12件 |
運輸交通業 | 6件 |
貨物取扱業 | 4件 |
接客娯楽業 | 4件 |
農林水産業 | 3件 |
商業・金融業 | 3件 |
その他の事業 | 7件 |
合計 | 123件 |
出典:厚生労働省「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」
酸素欠乏症による労働災害が多い業種として、製造業と建設業の2つが挙げられます。製造業や建設業に関わる人は、特に注意が必要です。
1-1.酸素欠乏症の危険性
空気中には、通常約21%の酸素が含まれています。しかし、酸素の少ない空気を吸い込んでしまうと大脳皮質の機能低下をはじめとした、さまざまな症状が起こります。
酸素濃度の変化により発生する主な症状は、下記の通りです。
酸素濃度 | 主な症状 |
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21~18% |
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18~16% |
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16~12% |
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12~8% |
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8~6% |
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6%以下 |
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心疾患がある人の場合は、酸素濃度が16~12%でも危険な状態となることがあります。また、疲労の蓄積や貧血など体調や体質によっては、症状が現れやすくなったり重症化したりするためさらに注意が必要です。
2.酸素欠乏症が発生する原因
酸素欠乏症が発生する原因は、以下の通りです。
物の酸化 |
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密閉された空間で物の酸化が起こると、空気中の酸素濃度は低下します。物の酸化による酸素欠乏症が発生しやすい場所は、下記の通りです。
酸素が消費されたタンク内や空間に入ると、酸素欠乏症の危険があります。 |
穀物・木材の呼吸 |
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穀物や木材は、貯蔵されている間にも呼吸して酸素を消費します。穀物や果物の貯蔵庫、原木やチップなどの木材貯蔵施設では、酸素欠乏症が起こらないように十分な換気が必要です。中でもチップは空気に触れている面積が多く、酸素をより消費すると言われています。チップに近づけば近づくほど酸素濃度が薄くなるため、作業の際には注意しましょう。 |
微生物の呼吸 |
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下水や汚物に含まれる微生物は、繁殖時に空気中の酸素を消費します。微生物が多い空間で作業をする場合は、酸素欠乏症になるリスクがあります。 微生物の呼吸による酸素欠乏症が起こりやすい場所は、下記の通りです。
さらに、微生物の呼吸により無酸素状態になるとメタンや硫化水素が発生し、ガス中毒や窒息などのリスクも高まります。 |
人の呼吸 |
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人間の呼吸でも酸素は消費されるため、狭い密閉された空間で長時間作業をしていると酸素濃度が低下します。密閉して使用しなければならない施設や内部から開閉できない冷蔵庫などは、特に注意が必要です。 |
不活性ガスの流入 |
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不活性ガスとは、化学反応が起こりにくいガスの総称で、窒素・ヘリウム・ネオン・アルゴン・フロンなどが挙げられます。不活性ガスを扱っている際に酸素濃度の計測を怠り、酸素欠乏症が発生することもあります。 不活性ガスの流入による酸素欠乏症は、酸化防止のための窒素封入作業や、火災・爆発時の消火活動などで多く見られます。 |
酸素欠乏空気などの噴出 |
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酸素欠乏症は、酸素濃度が低下した空気の噴出によっても起こります。酸素欠乏空気などの噴出により酸素欠乏症が発生しやすい状況は、下記の通りです。
十分に換気できない場所で酸素欠乏空気が噴出すると、酸素欠乏症を発症するだけでなく爆発事故に巻き込まれるリスクもあります。 |
3.酸素欠乏症への対策方法
酸素欠乏症を防ぐには、普段から十分な対策を講じることが重要です。労働者健康安全機構は、酸素欠乏症を防ぐための対策方法として下記を示しています。
- ①酸素欠乏危険作業主任者を選任し、作業主任者の職務を実施させること
- ②酸素欠乏危険場所では作業開始前に酸素濃度、硫化水素濃度の測定を実施すること
- ③換気をせずに、または換気が不十分な状態で、危険場所へ立ち入らないこと
- ④空気呼吸器等の呼吸用保護具を準備し、教育を行い、適切に使用すること
- ⑤転落のおそれがある場所は、酸素欠乏の発生に備え、安全帯等を使用すること
- ⑥事故発生時に備えて、空気呼吸器等、はしご、ロープ等の他、救出をするための必要な用具を備えておくこと
- ⑦酸素欠乏危険場所では労働者の出入りを点検すること
- ⑧酸素欠乏危険場所では関係者以外立入禁止とし、必要な事項の表示を行うこと
- ⑨酸素欠乏危険場所ではその近隣に必要事項を連絡しておくこと
- ⑩異常の早期発見と適切な処置を迅速に行うため監視人を配置すること
- ⑪労働者に対して、酸素欠乏危険作業、酸素欠乏症や硫化水素中毒に関する基礎知識とその対策、救助作業における注意、空気呼吸器等の保護具使用等の特別教育を実施すること
引用:独立行政法人 労働者健康安全機構「酸素欠乏症とその対策」/引用日2023/04/17
また、酸素欠乏症の恐れがある場所での作業には、酸素欠乏危険作業主任者を専任する必要があります。酸素欠乏症が発生しやすい場所や状況を正しく理解し、十分な対策を実施できる環境を整えなければなりません。
ここからは、酸素欠乏症を防ぐために徹底したい具体的な対策について詳しく解説します。
3-1.換気を実施する
酸素欠乏症を防ぐには、作業現場や作業内容に適した方法での換気が必須です。
換気方法には、下記の3種類があります。
- 送気式…空間内に空気を送り込む
- 排気式…空間内の排気を促す
- 送排気式…送気と排気を同時に行う
送気式換気の場合、送気用吸気口の付近に排気ガスを発生させるものを置くことは厳禁です。排気式換気では、排気管吐出口周辺に作業を行う人が立ち入らないようにします。送排気式は、送気と排気がスムーズに行えるように吐出口と吸気口は離して設置します。
送風に用いられる主な換気装置は、次の3種類です。
- ターボファン
- ポータブル型送風機
- 可搬式送風機とスパイラル
換気装置によって送風量が異なるため、作業現場に合った装置を選びましょう。換気装置が適切に動作するか、しっかり点検することも大切です。
換気する上での注意点は、下記の通りです。
- 空気呼吸器などの保護具を着用して換気する
- 作業中は換気装置の運転を中断しない
- ボンベからの圧縮酸素は使用しない
爆発のリスクがある場合や酸化防止の必要性がある場合などの換気できない場合を除き、作業中は十分な換気を行いましょう。
3-2.酸素濃度を測定する
作業開始前には、酸素濃度計を使って作業現場の酸素濃度を測定します。
酸素濃度計の主な種類と特徴は、下記の通りです。
投げ込みタイプ |
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ポケットタイプ |
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作業現場によっては、測定方法で酸素濃度計を選ぶことも大切です。測定方法別の酸素濃度計の特徴は、下記の表にまとめています。
ガルバニ式 |
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ポーラロ式 |
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ジルコニア式 |
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酸素濃度計で測定し、酸素濃度が18%未満の場合は換気が必要です。作業中はもちろん休憩後に作業を再開する場合にも、忘れずに酸素濃度を測定しましょう。
まとめ
酸素欠乏症とは空気中の酸素濃度が18%以下の場所で、酸素の薄い空気を体内に取り込んで体の機能が低下し、さまざまな症状が現れることを指します。酸素濃度が薄い空気を吸い続ければ命にかかわる場合もあるため、作業時は酸素の測定と換気が必須です。
酸素濃度計には人の手の届かない場所でも投げ込んで測定できるものや水に強いもの、熱に強いものなど多くの種類があります。作業環境を鑑みた上で適切な酸素濃度計を選び、酸素の計測を怠らないようにしましょう。