二酸化炭素濃度が高いと眠くなる?基準や換気方法・濃度の調べ方
屋内や車内など、閉ざされた空間で強い眠気を感じる原因の1つに、二酸化炭素(CO2)濃度の上昇があります。呼吸によって増えたCO2が換気不足で蓄積すると、脳への酸素供給が低下し、思考力や判断力に影響を及ぼすことが研究で明らかになっています。特に2,500ppmを超えると集中力が落ち、5,000ppm以上では眠気が顕著になると報告されています。
当記事では、CO2濃度が人の覚醒状態に与える影響をはじめ、オフィスや学校の基準値、効果的な換気方法、CO2センサーを活用した管理手法について解説します。
1.二酸化炭素が濃いと眠気が強くなるのはなぜ?
換気の悪い室内や車内で強い眠気を感じるのは、二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が原因の1つと考えられています。東北大学の研究チームによる実験では、CO2濃度を厳密に制御した環境下で「睡眠潜時反復検査」を実施した結果、二酸化炭素濃度が5,000ppmを超えると日中の眠気が顕著に強くなることが確認されました。これは、これまで主観的評価にとどまっていた仮説に科学的な裏付けを与える成果です。さらに、CO2濃度の上昇に伴い作業効率や正確性の低下も見られ、集中力の維持が難しくなることが分かっています。
この現象の詳しい仕組みはまだ解明されていませんが、CO2が脳内の覚醒システムや呼吸の調節機能に影響を及ぼす可能性が指摘されています。研究結果は、建築物や学校、オフィスの換気基準の見直しにもつながる重要な知見として注目されています。
1-1.二酸化炭素濃度が高くなると集中力も低下する
アメリカのローレンス・バークレー国立研究所の研究によると、二酸化炭素(CO2)濃度が約2,500ppmを超えると、人間の思考力や集中力が急激に低下することが確認されています。これは、脳が酸素不足に似た状態となり、判断力や計算力などの認知機能が鈍くなるためと考えられています。実際に、長野県伊那北高校の調査ではCO2濃度が2,500ppm以下では正解率が96%前後だったのに対し、2,500ppmを超えると約1.5%低下する結果も得られました。
文部科学省も学校環境衛生基準で教室内のCO2濃度を1,500ppm以下と定めていますが、実際の授業中はこの値を大きく上回る例も多く報告されています。集中力の低下は作業効率や学習効果にも直結するため、定期的な換気やCO2濃度の管理が生産性維持のポイントと言えるでしょう。
2.二酸化炭素濃度の法令上の基準
屋内の空気環境を快適かつ安全に保つためには、二酸化炭素(CO2)濃度の管理が大切です。CO2は人の呼吸によって発生するため、換気が不十分な空間では急速に濃度が上昇します。特にオフィスや学校など多人数が集まる場所では、作業効率や集中力の低下、強い眠気などの影響が出ることもあります。
そこで日本では、建築物衛生法や学校環境衛生基準によって、屋内のCO2濃度に関する目安が定められています。また、車両内では法的な基準こそ存在しないものの、実際の測定では危険なレベルに達することも確認されており、換気の重要性が指摘されています。
■オフィス
日本では、屋内空間における二酸化炭素(CO2)濃度の管理基準として、建築物環境衛生管理基準(建築物衛生法に基づく)で「CO2濃度=100万分の1,000以下(=1,000ppm以下)」を目安と定めています。オフィスや職場では、1,000ppm以下という基準を意識して換気や空気環境の維持を行うことが推奨されます。
■学校
学校など教育施設においては、学校環境衛生基準(学校保健安全法に基づく)で「換気の基準として、二酸化炭素は1,500ppm以下であることが望ましい」とされています。この数値はあくまで望ましい上限として示されており、多くの学校では換気回数の基準を定めるなどして、この範囲内に保つ努力がされています。
■車両内
自動車や鉄道車両の「走行中/在室中」のCO2濃度に関しては、法令上の明確な基準は定められていません。しかし、実験や測定によると、車の空調を「内気循環」に設定して運転した場合、CO2濃度が最大で約6,770ppmに達したという報告もあり、著しく高い濃度となると居眠り運転や集中力低下のリスクが増えると指摘されています。このため、車内では窓を開けて外気を取り入れたり、内気循環を長く続けないようにするなど、換気に相当する外気導入対策が重要となります。
3.眠くならないように二酸化炭素濃度を下げる換気の方法
二酸化炭素(CO2)濃度を下げるためには、効果的な換気が欠かせません。濃度が高まると眠気や集中力低下を引き起こすため、定期的に空気を入れ替えることが重要です。ここでは、簡単に実践できる自然換気と、効率的に空気を循環させる機械換気の2つの方法を紹介します。
3-1.窓を開ける(自然換気)
自然換気とは、窓を開けて外気を取り入れ、室内の空気を入れ替える最も手軽な方法です。特にオフィスでは、人の呼吸によって二酸化炭素(CO2)濃度が急速に上昇するため、定期的な窓開けが重要になります。建物の構造上、機械換気が導入されていても、人が多く集まる時間帯や空気の滞留しやすい場所では濃度が上がりやすく、自然換気を併用することでより効率的にCO2を下げることができます。
目安としては、1時間に5~10分程度、対角線上の窓を2か所開けて空気を通すのが効果的です。窓が1か所しかない場合でも、ドアを開けて空気の通り道をつくるだけで換気効率が上がります。気温差や風の流れを利用して自然に空気を循環させることができるため、特別な設備がなくても実践できるのが利点です。冷暖房の効率を損なわないように、外気温が極端な季節は短時間でもこまめな換気を心がけましょう。
3-2.換気システムを動作させる(機械換気)
オフィスの空気環境を快適に保つためには、機械換気システムを適切に稼働させるのもおすすめです。多くのオフィスでは、24時間換気設備によって約2時間ごとに室内の空気が入れ替わるよう設計されています。
これは二酸化炭素(CO2)を含む空気を外へ排出し、新鮮な外気を取り入れる仕組みです。しかし、会議室や空気の流れが届きにくい場所では、CO₂が滞留し濃度が高まるケースがあります。そのため、二酸化炭素濃度計を用いて定期的に測定し、濃度が上がりやすい箇所を把握することが重要です。
濃度が高い場所が見つかった場合は、ドアを開放する、空気の流れを作るなどの工夫を行いましょう。また、大人数が集まる会議やセミナー中は、機械換気を強めたり窓を少し開けたりすることで、眠気や集中力低下を防ぐ効果が期待できます。
4.二酸化炭素濃度をチェックする「CO2センサー」とは
二酸化炭素(CO2)センサーとは、室内のCO2濃度をリアルタイムで測定し、数値として表示する機器です。オフィスや学校、家庭などで、換気のタイミングを判断するために活用されています。濃度が上昇すると警告を出すタイプもあり、眠気や集中力の低下を防ぐのに役立ちます。ここでは、CO2センサーの選び方と設置方法について解説します。
4-1.CO2センサーの選び方
CO2センサーを選ぶ際は、測定精度と信頼性を重視することが大切です。安価な製品の中には、CO2ではなくアルコールなどの揮発性有機化合物(VOC)に反応する不正確なタイプもあるため注意が必要です。購入時には、説明文やパッケージに「NDIR(非分散型赤外線吸収方式)」または「PA(光音響方式)」と記載されている製品を選びましょう。また、測定値のズレを修正できる自動補正機能(校正機能)付きのモデルが推奨されます。
購入後は、センサーに呼気を吹きかけて数値が大きく上昇するかを確認し、アルコールを近づけても反応しないことをチェックします。定期的な校正を行うことで、長期的にも正確な測定が可能になります。
4-2.CO2センサーの設置方法
CO2センサーは設置場所によって測定値が大きく変わるため、正確なデータを得るには設置位置の選定が重要です。厚生労働省の指針では、ドアや窓、換気口から離れた室内中央部の床上75~150cmの位置が推奨されています。また、人から50cm以上離れた場所に設置することも大切です。誤った測定を避けるため、次の3点に注意しましょう。
- 人の息が直接かかる場所や燃焼物の近く(過大表示の原因)には置かない
- 窓際や出入口など外気が入りやすい場所(過小表示の原因)を避ける
- 風や温湿度の変化が大きい場所(精度低下の原因)を避ける
これらを守ることで、安定した二酸化炭素濃度の測定が可能になります。
まとめ
二酸化炭素(CO2)は、濃度が高くなると眠気や集中力低下を引き起こすことが研究で確認されています。東北大学の実験では5,000ppmを超えると眠気が強まり、バークレー国立研究所の調査でも2,500ppm以上で思考力が低下しました。法令上の基準はオフィスで1,000ppm以下、学校で1,500ppm以下が望ましいとされています。
効果的な対策として、自然換気や機械換気を活用し、CO2センサーで濃度を定期的にチェックすることが重要です。正確に数値を測定できる機器を選ぶだけでなく、設置位置にも注意しましょう。

















