リスクアセスメントとは?意味や効果・手順・事例を簡単に解説

職場における安全と衛生を確保し、労働災害を未然に防ぐには、潜在的な危険性や有害性を特定するリスクアセスメントが必須です。特に全世界に製造した製品が輸出される現代社会では、労災の発生によって製品の信頼性が大きく失墜し、会社に強い影響を与える可能性もあります。リスクアセスメントは職場の安全衛生意識を高め、労災が起こりかねない危険な工程を速やかに修正し、対策を取る有効な手順です。

この記事では、リスクアセスメントの意味や目的、効果や手順、および対策事例について紹介します。

1.リスクアセスメントの意味とは

リスクアセスメントとは、職場における潜在的な危険性や有害性を調査・特定し、リスク低減のための取り組みを実行する流れのことです。

労働安全衛生法第28条の2では、以下のように示されています。これにより、2006年4月1日以降、リスクアセスメントの実施が努力義務化されました。

(事業者の行うべき調査等)
第二十八条の二

事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。

引用:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」/引用日2023/9/18

1-1.リスクアセスメントの目的

リスクアセスメントは、業務などに潜むリスクを抽出・評価し、従業員が安全に働ける環境を整えることが目的です。

たとえば、製造業において工場に勤務している現場作業員は、常に機械操作における危険性や、有害物質の取り扱いといったリスクと向き合いながら仕事をしています。リスクアセスメントの実施により、従業員の安全性を確保し、労働災害の発生や影響を少しでも減らす必要があります。

従来、職場での怪我や事故を防止する安全対策は、発生した事故などの原因を調査し、再発を防止するため各職場で徹底していくという手法が一般的でした。この手法の場合、顕在化しているリスクには安全対策が取られます。

しかし、潜在化している危険性や有害性は災害が起きていない職場にも存在しており、これが放置されると、いずれは労働災害発生の可能性がある状態でした。また、技術の進歩により生産現場で使用される機械設備や化学物質などが多様化し、危険性や有害性も多様化しつつありました。

これらの状況をふまえ、自主的に職場の潜在化している危険性や有害性を見つけ出し、事故を未然に防ぐため考えられたのがリスクアセスメントです。

2.リスクアセスメントの効果

リスクアセスメントの実施により期待できる効果は、主に以下の3点です。

●職場のリスクが明確になり、守るべきことを理解しやすくなる

潜在化している危険性や有害性が明確化されることで、定められたルールを遵守すべき理由や、安全基準が理解されやすくなります。

●リスクに対する認識を共有できる

リスクアセスメントは、リスクアセスメント責任者だけでなく、安全管理者や現場従業員の参加を得て実施されます。そのため、職場全体が、安全衛生のリスクに対して共通認識を持つことが可能です。また、従業員がリスクアセスメントへ積極的に参加すれば、主体性を持って安全教育を受けられ、職場全員の安全意識向上が見込めます。

●安全衛生対策の優先順位を合理的に理解できる

リスクの見積もりを行うことで、実施する安全衛生対策の優先順位が客観的指標に基づき決定できます。また、従業員は「なぜ注意して作業しなければならないか」を合理的に理解でき、適切に優先順位をつけて安全対策ができます。

リスクアセスメントへの取り組みは、従業員が安心・安全な職場環境で作業できる試みであることはもちろん、取引先からの信用性・評価にも関わります。普段からリスクアセスメントを徹底していれば、自社の信用性向上も見込めます。

3.リスクアセスメントの手順

リスクアセスメントは、すべての従業員が職場のリスクとそれに対する対策を理解することから始めるのが重要です。リスクが許容できるレベルに低減されるまで手順を繰り返す必要があり、それぞれの手順について、4つのステップで解説します。

3-1.危険性や有害性を特定する

まず、機械・設備、原材料、作業行動や環境などについて調査し、危険性や有害性を特定します。ただし、職場にはリスクの高いものから低いものまで幅広く危険性や有害性が存在し、すべての危険性を同時に調査するのは難しいため、対象を絞ることが大切です。

危険性や有害性は「危険源」「ハザード」ともいわれ、従業員に負傷や疾病をもたらす状況や物を示します。リスクアセスメントでは、あらゆるところに危険源・ハザードが潜んでいると考えます。たとえば、それ単体で危険とされる毒物だけでなく、可燃性ガスもハザードに含まれます。また、安全対策が不十分な高所作業や、滑りやすい足場などもハザードです。

なお、厚生労働省が発表している「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、調査の実施にあたって必要な情報の入手に関して、以下のように定めています。

7 情報の入手

(1)事業者は、調査等の実施に当たり、次に掲げる資料等を入手し、その情報を活用するものとする。入手に当たっては、現場の実態を踏まえ、定常的な作業に係る資料等のみならず、非定常作業に係る資料等も含めるものとする。
ア 作業標準、作業手順書等
イ 仕様書、化学物質等安全データシート(MSDS)等、使用する機械設備、材料等に係る危険性又は有害性に関する情報
ウ 機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報
エ 作業環境測定結果等
オ 混在作業による危険性等、複数の事業者が同一の場所で作業を実施する状況に関する情報
カ 災害事例、災害統計等
キ その他、調査等の実施に当たり参考となる資料等

引用:厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」/引用日2023/9/18

3-2.危険性や有害性のリスクを見積もる

リスクの見積りは、以下の3つの観点を考慮して実施します。

  • 特定された危険性や有害性によって生じる恐れがある負傷、または疾病の重篤度
  • 発生可能性の度合
  • 危険性や有害性に近づく頻度

リスクの見積りは複数人で実施し、多様な観点を取り入れることが大切です。

特に、重篤度は低く見積もられる場合が多いですが、災害防止の立場から重篤度は最悪の場合を想定した評価が必要です。重篤度を高く評価する意見が出た場合は、最もリスクを高く見積もった人の意見を中心に聞き、適正な評価を行う必要があります。

リスクを見積もる際は、以下の方法のうちどちらかの使用が一般的です。

  • マトリクスを用いた方法
  • 数値化による加算法

マトリクスを用いる場合、重篤度と発生可能性をそれぞれ3~4段階に分け、以下のように分類します。

×(高いか比較的高い)
致命的・重大 III(直ちに解決すべき、または重大なリスクがある)
中程度 III(直ちに解決すべき、または重大なリスクがある)
軽度 II(速やかにリスク低減措置を講ずる必要のあるリスクがある)
△(可能性がある)
致命的・重大 III(直ちに解決すべき、または重大なリスクがある)
中程度 II(速やかにリスク低減措置を講ずる必要のあるリスクがある)
軽度 I(必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスクがある)
○(ほとんどない)
致命的・重大 II(速やかにリスク低減措置を講ずる必要のあるリスクがある)
中程度 I(必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスクがある)
軽度 I(必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスクがある)

出典:厚生労働省「リスクアセスメント実施事例集」

加算法を用いる場合、重篤度と発生可能性を数値に置き換え、合計した数値でリスクを計測します。

3-3.リスク低減措置を検討・実施する

見積もられたリスクに基づいて優先度を設定し、リスクの除去や低減措置を検討・実施します。なお、リスク低減措置の検討・実施にあたって、法令により規定された事項がある場合、必ず法を遵守しなければなりません。

リスク低減措置の優先順位について、厚生労働省は以下の通り提示しています。

  • 1. 設計や計画の段階における危険性又は有害性の除去又は低減
    危険な作業の廃止・変更、危険性や有害性の低い材料への代替、より安全な施工方法への変更等
  • 2. 工学的対策
    局所排気装置、防音囲いの設置等
  • 3. 管理的対策
    マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練等
  • 4. 個人用保護具の使用
    上記1~3の措置を講じた場合においても、除去・低減しきれなかったリスクに対して実施するものに限られます

引用:厚生労働省「− リスク低減措置の優先順位 −」/引用日2023/9/19

実施後には、リスク低減措置を講じたことにより新たに危険性や有害性が発生していないかを確認するのも大切です。万が一、危険性や有害性が生じた場合は、実施したリスク低減措置の改善に向けて再検討しなければなりません。

3-4.導入による効果を記録・確認する

リスク低減措置の実施後、リスク低減措置が効果的であったかを確認する必要があります。導入による効果の記録は、危険性や有害性の特定から低減措置実施に至るまで一切を保管し、関係者は、いつでも誰でも見られるようにしておきます。記録を見直し、次年度以降のリスクアセスメントや安全衛生水準の向上に役立てることが重要です。

なお、厚生労働省が発表している「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、記録すべき内容に関して、以下のように定めています。

11 記録

事業者は、次に掲げる事項を記録するものとする。

  • (1)洗い出した作業
  • (2)特定した危険性又は有害性
  • (3)見積もったリスク
  • (4)設定したリスク低減措置の優先度
  • (5)実施したリスク低減措置の内容

引用:厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」/引用日2023/9/19

また、リスクアセスメント実施責任者だけでなく、参加者や関係部署に、実施した対策やその結果などについて説明することも望まれます。リスクを周知し、安全意識を高めるためにも、社内全体で結果を共有するのがおすすめです。

4.リスクアセスメントの対策事例

リスクアセスメントの実施にあたり、手順をふまえて実施された対策事例を紹介します。対策事例は、「リスクアセスメント実施事例集」より取り扱います。

作業名 ガス切断作業
危険性または有害性と発生の恐れのある災害 ガス切断作業中に逆火し火災になる。
既存の災害防止対策 消火器、バケツの準備
作業開始前の点検
リスクの見積り 重篤度 ×(致命的・重大)
発生可能性 △(可能性がある)
優先度 III(直ちに解決すべき、または重大なリスクがある)
リスクの低減対策
  • ガスボンベに逆火防止装置を取り付ける。
  • 作業開始後もう一度異常がないか確認する。
措置実施後のリスクの見積り 重篤度 ◯(軽度)
発生可能性 ◯(ほとんどない)
優先度 I(必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスクがある)
今後の検討課題
  • 日常点検を徹底する。
  • 点検記録、作業手順を見直す。
作業名 倉庫・構内フォークリフト作業
危険性または有害性と発生の恐れのある災害 歩道と車道が分離されていないので、フォークと陰から出てきた作業者が接触しケガをする。
既存の災害防止対策 構内徐行標識
リスクの見積り 重篤度 ×(致命的・重大)
発生可能性 ×(高いか比較的高い)
優先度 III(直ちに解決すべき、または重大なリスクがある)
リスクの低減対策
  • 歩道と車道を分離する。
措置実施後のリスクの見積り 重篤度 ×(致命的・重大)
発生可能性 ◯(ほとんどない)
優先度 II(速やかにリスク低減措置を講ずる必要のあるリスクがある)
今後の検討課題
  • 歩道(安全地帯)を設定する。

出典:厚生労働省「リスクアセスメント実施事例集」

リスクアセスメントへの取り組みは、実際の調査から低減措置の策定まで、現場にあったやり方で実施し、継続した活動として進めていきましょう。取り扱う機械や物質はそれぞれ異なるため、現場の声を集めながらリスクアセスメントを進めるのがおすすめです。

特に、化学物質は使用法によって人体に大きな影響を及ぼす可能性があることからラベル表示・SDS交付義務が課されているものもあります。化学物質の有害性を見積もる場合、ツールを用いて作業場の気中濃度を測定し、リスクアセスメント対象物質のばく露限界値と比較する方法が知られています。

必要に応じて計測機器や測定器を使用し、正確な数値を用いたリスクの見積りや低減措置を検討することが大切です。

まとめ

リスクアセスメントとは、職場における潜在的な危険性や有害性を調査・評価し、従業員が安全に働ける環境を整えることです。リスクアセスメントにより、リスクに対する認識を共有でき、職場のリスクが明確になります。従業員はなぜルールを守るべきか理解しやすくなり、優先順位をつけて安全衛生対策に取り組めます。

リスクアセスメントを適切に行い、危険性や有害性のリスクを見積もって対処をするには、客観的な指標が必要です。計測機器や測定器を利用すれば、作業者がこれまで気づかなかった潜在的な危険性に気づけます。特に化学物質などの目に見えないものは、計測機器や測定器を使用してリスクアセスメントを行いましょう。

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